独断と偏見の・・・ベスト音律はこれだ!
ショパン作曲 ワルツ 第6番 変ニ長調 op.64-1
「子犬のワルツ」
ここでは、ききくらべのコーナーの「おすすめ調律法」について、その結論に至った経緯を残しておきたいと思います。
理論的な事よりもあくまで「主観的な」印象を重視していますので、書いている本人でさえその日の気分によってベスト音律は異なってきます。予告無く内容を書き換えることもありますのでご了承ください。
ちなみにMidi音源は外付けのSC-88VL (古っ!)で評価しています。
ポイントは何といっても出だしのこのフレーズ。この曲全体の雰囲気を象徴しています。
● 平均律
As-G-As の半音が、平均律ではどうも広すぎて、いまひとつ愛らしくない。子犬のワルツというよりは成犬のワルツってかんじ。
それも凛々しい演奏としてアリとは思うのですが・・・。
古典調律ではほぼ例外なくAs-Gの半音は平均律より狭くなるんです。
ショパンは古典調律の「やや狭い半音」を期待して、出だしにこの音程を選んでいるに違いないんです。
● キルンベルガー第1 [MP3録音]
もったいぶらずに結論行きましょう。これがベスト!。
とても愛らしく夢のある響きになります。
・出だしの As-G-As の半音は平均律より約10cent狭くなります。過不足無く次のC-Bともきれいにつながります。
・この調律法にはD-Aでヴォルフが出るという致命的な欠点があり、この曲ではDもAも使われているのですが、同時に鳴る場所は全く無いのでこのヴォルフが表面化することはありません。
・伴奏の長3度は純正ではありませんが、スタッカートでは全く気になりませんし、むしろ高めのピタゴラス長3度が曲の雰囲気に合っています。
キルンベルガー第1に取り組んでおられる調律師さんのホームページをご紹介しておきます。
胡(えびす) 三郎 音楽スタジオ http://www1.ttcn.ne.jp/~ebisu-studio/
● キルンベルガー第2
キルンベルガー第1と違うのは実質的にA音のみです。
(このライブラリではA音を基準にとってあるので、全体的に第1よりすこし低めにシフトしてしまうので雰囲気が変わって聞こえます)
この曲では数箇所A音やHのダブルフラット(Aの異名同音)が出てきます。一般的な臨時記号の解釈では、ナチュラルAはやや高めの第2が良いし、Hのダブルフラットは、低めになる第1の方が良いことになる。さぁ困った。
Aナチュラルの例・・ベースの動きに注目。1オクターブ上でも出てきます。他にも数箇所。
Hのダブルフラット・・・この1箇所のみ?
Aが高めに響くキルンベルガー第2の方が少し軽い響きになります。子犬っぽい?
Aが低めの第1も、愛らしい感じで十分魅力的。
どちらの解釈もアリかなとは思うのですが、第1の方がAがアクセントになって前後とのバランスが良いように思える。これはもう、気分の問題。
● キルンベルガー第3
多少平均律に近づいてきているので、冒頭のAs-Gは平均律より4セント狭いだけです。キルンベルガー第1と平均律の中間あたりの音程表現・・・かな?。子犬っぽさはだいぶ薄れてしまうような。
● その他の調律法
ヴェルクマイスター第1技法3番(ベルクマイスターV)の場合
キルンベルガー第3の印象と似ていますが、こちらのほうが上品な響き。クラシック愛好家にはうけが良いでしょう。
ヴェルクマイスター第2など、他のバリエーションもそれなりに良い感じです。
ヴァロッティ/ヤングの調律法の場合
ヴェルクマイスターと同様、上品な響きです。
不協和音の響きに特色がある調律法なのですが、この曲ではそういう所は出てこないため、この調律法の本領が発揮できなくてやや欲求不満な感じ。
ラモーの調律法の場合
ショパンの曲は全般にラモーの調律法とも相性が良いのですが、この「子犬のワルツ」についてはバランスの悪いところが少々耳につきすぎます。
もっとも実はラモーはアイデアを提示しただけであり、この調律法ライブラリ以外の音程解釈も色々あるということらしいので、もう少し詳しく調べて見たほうが良さそうな所ではあります。
※参考文献(書籍名、URL一覧のみ)
解説: Shintaro Murakami murashin@murashin.sakura.ne.jp
Copyright(C), 1998-2006, Shintaro.Murakami
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