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拡張ピタゴラス音律について

2000,4,20

 私はなるべく多くのバッハの曲と調律の組み合わせを試み、聴いてきた結果として、バッハの曲とピタゴラス音律はなかなか相性が良いのですが、バッハの曲のためには一般的に紹介されているピタゴラス音律の定義と若干の異なる調律法を提案したいと思います。この調律法は全く新しいものではありませんが、一般的なピタゴラス音律と区別して「拡張ピタゴラス音律」とでも名づけましょうか。

 とりあえず、何が違うのか、次の表は平均律の各音程に対する差という形で、拡張ピタゴラス音律を示しています。

表1: 拡張ピタゴラス音律 

 12等分平均律との差を示す数値は5度上昇・又は4度下降するにつれて約2centずつ平均律から離れていきます。最大の特徴は上表の隣り合う音程が、例外無くうなりの無いように純正に取られている、と言う所です。「拡張ピタゴラス音律」とは、このように単純なものです。

 一般的に紹介されるピタゴラス音律と異なるのは、普通は12種類の音程しか示されず、たとえばAbとG#のような音程は異名同音として同じものと扱われてしまうのに対し、ここでは全て異なる音程として扱っているということです。全ての音程が「異名異音」となっているわけです。ダブルフラットやダブルシャープまで含めれば実に35種類もの音程が1オクターブの中に存在しうる、というわけなのです。「拡張ピタゴラス音律」という名前は、これら全てを異なる音程として扱い、かつその一つ一つがピタゴラス音律の特徴である純正な完全五度(完全四度)のみから成るということに由来している。

 これは実際の演奏の場面において、たとえ同じ鍵盤の音であろうとも、バッハが楽譜にAbで記譜していたならばこのAb・・・すなわち平均律より14cent低く、G#で記譜していれば平均律より10cent高く演奏しなくてはならない、ということを意味しています。無茶な要求ですが、シンセサイザ上でそのように演奏したときの実際の効果はバッハの多くの楽曲をより説得力のあるものにするのです。そもそも、管楽器・弦楽器の演奏においては、異名同音が必ずしも成り立たないということは常識であり、目新しいことでもないのですが。

 

 20世紀の音楽において、1オクターブを12以上の音程で構成する音律は「微分音律」などと呼ばれ、この為には特殊な記譜法と、それらの音律のための専用の楽曲を準備しなくてはならないのが普通でした。しかし、この点において「拡張ピタゴラス音律」は、既存の記譜のルールですべて表現できます。異名同音を否定しているというだけなのです。

 そもそも15〜17世紀までの記譜法が発達する段階においては、本来これだけの種類の音程を記録できるものとして考案・改良されたものだったのかも、という可能性もあるでしょう。長い歴史の流れの中で単純化・簡略化され、忘れらされていただけなのかもしれないのです。

キーワード:
音楽 , クラシック , ピアノ , 調律 , 平均律 , 純正調 , バッハ , モーツァルト , ショパン