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独断と偏見による古典音律解説

 

ピタゴラス音律   〜ルネッサンスまで
 
音律の概要:

 可能な限りの全ての完全5度(完全4度)を純正にとります。

 
サンプル曲(MP3録音):
J.S.バッハ作曲 BWV578フーガ ト短調「小フーガ」


ネッケ作曲 クシコスポスト (ホ短調)


特徴:

 シンプルな単旋律の演奏に広く利用できます。
 だれにもなじみやすく、豊かで魅力的な喜怒哀楽の表現が可能です。

 コラールのような和声曲では、清涼感と空間的な広がりを感じさせる響きを生みます。ただし少々落ち着きのない響きでもあり、長く聴いていると飽きやすいという欠点があります。

 .ゴシック以前の時代、天文学と音楽が関連を持った分野として扱われていた(※)、という話を聞いても、現在の私達にはばかばかしい話のように感じられますが、ピタゴラス音律で演奏されるコラールの響きを聴いたならば、その空間的な広がりを感じさせる響きになるほどと頷くことでしょう。

 長い曲の場合には、その単純な響きの構造から、ピタゴラス音律では退屈になりやすいという点に十分留意しなくてはなりません。これは曲の一部分だけを取り出して練習していると気がつかないという点で深刻です。弦楽器や管楽器ではピタゴラス音律に近い音程で演奏されることがあるということがしばしば指摘されますが、これが「クラシック音楽は退屈」という否定的な意見の原因の一つになっている可能性もあるかもしれません。

 ピタゴラス音律の長所を生かし、欠点を補う作曲技法の一つにフーガを挙げることができます。フーガにとってこの音律は、シンプルなテーマの魅力を十分に引き出し、それらが複雑にからみあっても各テーマは和声に埋もれにくく、単純な音律構造のおかげで複雑な楽曲も構築しやすい等々、とても相性が良いのです。もしあなたがフーガの技法に興味を持たれるなら、ピタゴラス音律をぜひ一度試してみることをお奨めします。

 さて一方で、狭い5度の副産物として生じる響きにも少し注目しておかなくてはならないでしょう。理論的な話になってしまいますが、ピタゴラス音律は純正よりもかなり広めの8つの長3度(これをピタゴラス長3度ともいう)を持つ一方で、4つのほぼ純正な長3度を持ちます。これは狭い5度の副産物として形成されるのでしばしば無視されますが、実はとても重要な特徴で、副産物として純正律に非常に近い音律が形成されるのです。 ピタゴラス音律と純正律は、一方が単旋律向き、一方が和声向きということで全く正反対の性格を持つ音律として説明されることもありますが、それは使用方法の違いであって、調律法としては若干の妥協のみで一つの調律法の中に共存可能なものなのです。

 

実践のために:

 ピタゴラス音律を鍵盤楽器に施すと、11の純正な完全5度(又は完全4度)と一つのかなり狭い5度(広い4度)ができます。ピタゴラス音律を実践する際には、この狭い5度をどこに置くか、ということを慎重に吟味しなくてはなりません!。特徴であるところの「シンプルな単旋律の演奏に向き、だれにもなじみやすく、豊かで魅力的な喜怒哀楽の表現が可能」というのは、この吟味が正しく行われている事を前提にした話なのです。

 一部の解説書では、この狭い5度の位置を固定されている物として説明しているものが少なくないですが、これは実際の応用には不適切です。ピタゴラス音律は常に完全5度(完全4度)を純正に演奏する事を要求しますから、楽曲の途中で不純な狭い5度が出てくることは特殊効果を狙うのでないかぎり、不自然で音楽をしらけさせることになってしまいます。

 問題の狭い5度をどこに置くべきかということで最も参考になるのは、演奏しようとする曲の調号や臨時記号でしょう。単旋律上の臨時記号の付く音に関して一般的に言える事として、シャープ#の付く音は平均律のそれよりよりもさらに高め、フラット♭の付く音は平均律のそれよりもさらに低めに演奏すると概ね良い結果が得られますから、

もし次のような条件を満たす旋律があったとすると・・・

?A#は使われず、Bbが使われていて、
?Ebは使われず、D#が使われていて、
?かつBbとD#が同時に鳴る場所がない
・・・という3つの条件を満足する曲・・・

 こういう曲でしたら、狭い5度をBbとD#の間に設定し(Bbを低めに、D#を高めにとれば、必然的にBb-D#の5度は狭くなる)、他の5度を全て純正に合わせる事は、きっと良い結果をもたらすでしょう。

 「常に完全5度を純正に演奏する」ということは、これは一定の調を演奏する限りはそれほど難しいことではありません。古い舞曲集や組曲には全て同じ調で構成されているものも多くあり、これらは狭い5度を同じ位置に置いたままで全楽章を演奏可能です。

 

参考文献(書籍名、URL一覧のみ)

解説: Shintaro Murakami murashin@murashin.sakura.ne.jp

Copyright(C), 1998-2009, Shintaro.Murakami

キーワード:

音楽 , クラシック , ピアノ , 調律 , ピタゴラス音律 , バッハ , フーガの技法