独断と偏見による古典音律解説
ラモー(Rameau)の音律
バロック後期〜古典派、ロマン派の一部
音律の概要:
ミーントーン律から「ウルフ」を軽減するために、5度音程のいくつかを純正なものに替える修正法。さ らに「ウルフ」を2つの5度に分散させている。
●調律考案者: ラモー(Rameau, 1683-1764)
ラモーはフランスの作曲家、音楽理論家。 ラモーの音楽理論は後の時代の音楽家に少なからず影響を与えたと考えられている。
●調律方法: 「B - F - C - G - D - A - E - H」をミーントーンの5度に取り、「H - Fis - Cis - Gis」を純正な5度に取る。残りの「Es」を「Gis」と「B」の中間に取る。(H.Legros案(1973年)。ラモーは言葉でアイデアを示しただけなので、解釈により数種類あります。別の解釈としてH.フォーゲルの案などがあります)
●純正な音程: 5度が「H - Fis - Cis - Gis」。 長3度が「B - D」「F - A」「C - E」「G - H」。
●出典: オルガンの歴史とその原理/平島達司/神戸松蔭女子学院(短期)大学学術研究会
「明庵(めあんとねさんのページ)」(http://crafts.jp/~meantone/index_.html)より引用させて頂きました。 [魚拓]大雑把には、プレトリウスの調律法やシュニットガーの調律法などの中全音律改変型のグループに位置づけられます。
サンプル曲(MP3録音):
・モーツァルト作曲 2台のためのピアノ・ソナタ ニ長調 K.448 第1楽章 Sonata,2pf D-Dur
・ショパン作曲 エチュード 第5番変ト長調op.10-5「黒鍵」
・ショパン作曲 前奏曲 Prelude, op.28
特徴:
シュニットガーの調律法と比較すると特徴がわかりやすいと思われます。シュニットガーの調律法はオルガンを想定して、教会など厳かな雰囲気にふさわしいものになっていました。ラモーも教会のオルガニストとして活躍していますが、一方このラモーの音律にはそのような縛りはあまり感じられず、一言でいうと「娯楽として音楽を楽しむ」という用途に向くように手を加えられた調律法になっているようです。
ラモーの経歴や功績については、Wikipediaにも簡単な解説がありますので参照されることをお奨めします。。
ラモーの代表的な功績として、『和声論Traite' de l'harmonie 』〔1722年〕、『音楽理論の新体系Nouveau syste`me de musique the'orique 』〔1726年〕 があり、音楽理論の面で後の時代の音楽家に大きな影響を与えました。
実際にこの時代の音楽に使用して聞いてみると、シュニットガーの調律法と比較してやや濁った響きが多く耳につくことに気がつきますが、この濁りはけして欠点ではなく、わくわくするような楽しさを音楽に与えてくれます。
・・・まじめ一筋のシュニットガーの調律法に対して、陽気で楽しいラモーの音律、というところでしょうか。また「調性格」の面でも多彩な顔を持っていて、歌劇のような表現を連想させるような楽しさがあります。
実践のために:
多彩な調性格を持つ反面、逆に言うと調律自身の自己主張が激しいので、性格に合わない曲をこの調律で演奏すると、ひどいことになってしまいます。使いこなしの難しい調律法です。
特筆すべきは、まず W.A.モーツァルト の演奏には最有力候補として検討されてよい調律法だということです。
ある時はわくわくするような楽しさ、ある時は皮肉たっぷりのエスプリ、ある時は繊細な和声表現、どれを取っても平均律では真似の出来ない類の響きを見事によみがえらせてくれます。 このラモーの調律法がいかに使いこなしの難しい調律法なのか、ということを思えば、「偶然たまたま」などとはとても思えない相乗効果があるのです。
この時代には多種多様な改良中全音律があったようなので、モーツァルトもいくつかの調律法を使い分けていた可能性はもちろんあるでしょう。ラモーの調律法やシュニットガーの調律法などを参考に、いろいろ変えて試してみるのも良いかもしれません。
18世紀後半から、19世紀の作曲家の作品にたいしてかなり広範囲に応用可能です。以下にその例を示します。
モーツァルト ピアノソナタ集
ショパン マズルカ集
ショパン エチュード Op.10 No.1〜12
ショパン 24の前奏曲
ショパン バラード集 第1〜4番
チャイコフスキー 「眠れる森の美女」
ブラームス ハンガリー舞曲集
※参考文献(書籍名、URL一覧のみ)
解説: Shintaro Murakami murashin@murashin.sakura.ne.jp
Copyright(C), 1998-2006, Shintaro.Murakami
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