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●古典調律・・・私の最初の1歩
私が1988年にシンセサイザー(YAMAHA V50)を買った時、偶然ですがそれにはいくつかの古典調律の機能が付いていました。ピタゴラス音律、純正調、中全音律、ヴェルクマイスター、キルンベルガーなど、現在でも古典調律を勉強する人はよく耳にするであろう音律、それに自分で自由に調整した調律を設定して記憶させられる機能が付いていました。
私が最初にそれらの古典調律を試した時の感想は、およそこんなものでした。
しかし一方で、私は以前から平均律にも疑問を持っていました。人の演奏を聴いているときはそれほど気にならないのですが、自分で簡単な旋律か何かを演奏してみると(ちなみに私はほとんどピアノは弾けません)、どうも自分のイメージと違うような気がして、嘘をついているような気分になるのです。
私は小学校の低学年の頃に、大変熱心に合唱の指導をしてくださる先生がいて、それが本格的な音楽体験の最初だったと言えるのですが、今になって思えば合唱で歌われる一つ一つの音程は微妙に平均律とは違うものなので、その時の音程感覚がそのまま身についてしまったのかもしれません。
平均律とも、シンセに組み込んである音律とも違う、なにかもっと別のものがあるような気がした私は、ある日たまたま1冊の本と出会いました。それは「旋律法入門」と言う本で、・・・今は内容のほとんどをもう忘れてしまいましたが(苦笑)、その本に書かれていた事のいくつかを実際にシンセサイザーの調律を調整できる機能を使って試してみたのです。ヴィバルディの四季の「春」の冒頭の旋律をどのような音程で演奏すれば良いか?という話において、長三度の音程を「高め」に取ると、より春らしい表現になるという話など、その結果は大変納得・共感できるものでした。
そこで私は、適当な曲を1つ決めて、とにかく主旋律に対して妥協なくそのメロディーに最適な音程を一つずつ調整しながら、1つの曲をシンセサイザで仕上げようということを思いつきました。選んだ曲はバッハの管弦楽組曲第2番の「ポロネーズ」です。自分が良く知っていて、なんとなくどういうふうに調整していけばよいかというイメージがたまたま一番持ちやすかったというのが選曲理由でした。
主題の部分を始めるなり、私はまずこんなことに気がつきました。
「どうも1つの音程を場所によって高くしたり低くしたりするのは気持ち悪いぞ?」
これは少々意外な発見でした。始める前は一つ一つ全て最適な音程は違ってくると思っていたのに、同じ音程をあるところでは高め、あるところでは低め、などと切りかえると気持ち悪くてがまんならないのです。どうも高めの音程は常に高め、低めの音程は常に低めとするのが自然のようにきこえるのです。結局旋律を構成する一つ一つの音を順番に検討すると言うよりは、一つの音程は演奏している間固定で、鍵盤の12の音程をそれぞれ決めていく、という形になっていきました。
この音程決めにおいては一つ手法としてこだわったことがありました。いわゆる「和音を鳴らしてそのうなりがどのようであるか」ということは意図的に一切行わず、・・・つまり和音の響きは故意に無視するという手法を取ったのです。
これはいわゆる「調律法」とはまったく方向性の異なるものですが、あえてそれに取り組む事はなかなか愉快な気分でした。そして粘土工作の様にあれやこれや音程をいじくりまわしているうち、それはだんだんと形になってきて、ポロネーズの主題をそこそこ納得のいく形で演奏できる音程になっていきました。次に中間部のフルート独奏による変奏の部分にとりかかります。「とりあえず今の音程で一回聞いてみるか」ということで何気なく演奏したその効果に、私は次の発見をすることになります。
主題部の為に決めた音程は、変奏部に対して全くそのままの形でも、予想以上に満足できる結果だったのです!。
そして何度か聴いているうちに、今度は主題部で音程の決定に多少の迷いが残っていたような音程をどうすればよいかという方向性が少しずつ見えてきたので、若干の修正を加え、より満足のできる形に仕上げて行きました。それは全く自己満足の自画自賛かもしれませんが、とにもかくにも私の第一歩、「ポロネーズ主旋律のための和音の響きは完全無視音階(音律)」はそうしてできあがったのです。
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