独断と偏見による古典音律解説
ミーントーン(MeanTone)
ルネッサンス〜
音律の概要:
可能な限りの全ての長3度を純正にとる調律法。これを純正調における大全音と小全音の中間の所に取った全音(すなわち中全音)により構成したことから中全音律と呼ばれます。
●考案者:ピエトロ・アーロン (Pietro Aron, 1480頃-1550頃)
●調律方法:純正な長3度を取る。その長3度(と2オクターブ)を均等に(周波数比が同じ)5度で割る。そこからまた純正な長3度を取る。
●純正な音程:純正なのは長3度の「 Es - G - H 」「 B - D - Fis 」「 F - A -Cis 」「 C - E - Gis 」。
●出典:ゼロ・ビートの再発見(本篇・技法篇)/平島達司/東京音楽社
「明庵(めあんとねさんのページ)」(http://crafts.jp/~meantone/index_.html)より引用させて頂きました。 [魚拓]なお、古典調律についての話題の中で単に「ミーントーン(Meantone)」という場合、日本では1/4コンマ・ミーントーンの事を示す事が普通(※)ですが、改良形まで含めてこの名称が用いられる例も多く、欧米では 1/6コンマ・ミーントーンのことを指している場合もあるので、必要に応じてよく詳細を確認するなどしてください。
特徴:
第一印象としては、現在の私達にはなかなかなじみにくい音律です。「純正よりもやや狭い5度」というのが直感に反する音程であるためです。これを理解するためには、その「アンチ・ピタゴラス音律」的な特徴を理解するところからまず始めなくてはなりません。
私達がミーントーン(Meantone)に対して最初に感じる不満の多くは、実はピタゴラス音律を代わりに採用する事でほぼ解決してしまいます。そしてピタゴラス音律の長所と短所を理解できた時、初めてミーントーン(Meantone)の特徴も正しく理解できるだろうと私は考えます。
ミーントーン(Meantone)の特徴をうまく生かすためには、当然ながらこの特徴をよく理解することが必要です。おそらくこの音律が考案された当初、この音律でうまく演奏できる楽曲は少なく、特別な配慮を作曲や編曲に折り込んだ作品が特別に創作されなくてはならなかったでしょう。しかしこの結果、ピタゴラス音律では出来ないタイプの多種多様な表現方法が新しく生み出されることになり、その後のヨーロッパの音楽を大きく発展させるきっかけになりました。
ミーントーン(Meantone)が得意とする表現を一言でいうならば「人間臭い表現」とでも言いましょうか。ピタゴラス音律のバランスのとれた、しかし少々冷たい感じのする響きに対して、この音律は少々バランスは悪いものの、温かみのある人間臭い表現が可能になりました。
ミーントーンは5度がやや狭いため、5度を多用する曲では閉塞感を感じさせる響きになってしまいます。ピタゴラス音律がスケール感の大きな大自然をテーマとしたような音楽を得意とするのに対して、ミーントーンは心の内面的な喜怒哀楽の表現を得意とします。また、ミーントーンの純正長三度はとても美しく響きます。この純正長三度は、物事がうまく行っているような印象を与えるので、祝賀行事や結婚式、クリスマスのようなおめでたい場のための音楽で多用されてきました。
ミーントーンの上手な使いこなしに関しては、ルネサンス・バロック期だけでなく、18世紀後半から19世紀に入ってもなお、多くの音楽家によって新しい表現手法が模索され続けました。この蓄積の量はたいへんなもので、クラシック音楽を勉強する人たちがぜひとも学んでおくべきことと言えます。
実践のために:
ミーントーンはバロック以前に用いられた音律とみなされてきたため、日本では古楽・バロック音楽に取り組む人を除いてほとんど研究されてきませんでした。しかし、実際に色々なクラシック曲と組み合わせて演奏してみると、偶然とは思えないほど具合良く会う曲を多数見つけることができます。その一部について、平均律や各種音律との聞き比べ動画を作成しましたので以下に示します。
ヘンデル オラトリオ「ユダス・マカベウス」第3部より『見よ、勇者は帰る』(通称:得賞歌)
ハイドン ソナタNo.50 Hob.XVI:37 より1楽章
モーツァルト ピアノ・ソナタ 第11番イ長調K.331 第1楽章
モーツァルト ピアノ・ソナタ 第16(15)番 K. 545 全楽章
クレメンティ Op.36 No.1 (ソナチネアルバム第7番)ハ長調
C.チェルニー OP.400 12の前奏曲とフーガ 全曲 ※S.C.1/4ミーントーンのみ収録
ウェーバー ロンド・ブリランテ 「戯れごと」 /Rondo brillante "La gaiete" Es-Dur Op.62 J.252
シューマン 「子供の情景」Op.15 (トロイメライを含む)
ワーグナー 婚礼の合唱(結婚行進曲) オペラ「ローエングリン」より
チャイコフスキー Op.71a くるみ割り人形組曲 ピアノ編曲版
ラフマニノフ ピアノ協奏曲第1番 第3楽章 Allegro vivace
グリーグ 抒情小曲集4 Op.47 - 2.アルバムの綴り(Album Leaf)
聖者の行進 (When The Saint's Go Marching In)
チューチュー・ブギ ( Choo Choo Ch'Boogie )
レイ・チャールズ ジョージア・オン・マイ・マインド(我が心のジョージア)
なお、ミーントーンには各種の改変形があり、これまであまり注目されてきませんでした。しかしこの改変形の音律は17世紀〜19世紀の音楽にとても有用です。これらについてはそれぞれ別の章を設けて解説しましょう。 [シュニットガー(Schnitger)] [ラモー(Rameau)]
解説: Shintaro Murakami murashin@murashin.sakura.ne.jp
Copyright(C), 1998-2009, Shintaro.Murakami
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